コラム
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2025年10月3日
再生可能エネルギーの普及に伴い、太陽光発電を中心に「出力抑制」という制度が注目されています。出力抑制とは、電力の供給過多や系統の安定性を保つために、発電量を制限する仕組みです。
特に工場や大規模施設で太陽光発電を導入している場合、売電収益や自家消費の効率に影響が出る可能性があります。本記事では、出力抑制の仕組みや太陽光発電への影響、見通しについて詳しく解説します。
目次
出力抑制(出力制御)とは、再生可能エネルギーで発電した電力を一時的に制限する仕組みです。具体的な仕組みや必要性などを詳しく見ていきましょう。
出力抑制とは、再生可能エネルギーの発電量が需要に対して過剰になると予想される際に、一般送配電事業者が発電事業者へ出力を減らすよう指示する仕組みです。具体的には、太陽光発電や風力発電所が対象となり、発電事業者は一部の発電を停止することになります。抑制された分の電力は活用されず、そのまま捨てられてしまい、事業者への補償もありません。
ただし、出力抑制は頻繁に行われるものではなく、電力の需給バランスを維持する必要がある場合に限られます。この仕組みによって、再生可能エネルギーが急増する中でも、電力システム全体の安定性が確保されています。
出力抑制が必要とされる理由は、電力の需給バランスを保つためです。電気は貯めておくことが難しいため、発電量と消費量を常に均等に保たなければなりません。もし発電量が需要を大きく上回れば、周波数が乱れ、停電や大規模障害につながる恐れがあります。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候に左右されやすく、一時的に発電量が急増してしまうことも少なくありません。
また、日本の送電網には地域ごとに限界があります。需要が少ない地域で発電量が急増しても、電気を他のエリアに送りきれません。その結果、送電網が混雑し、電力の安定供給に支障をきたす危険が生じます。こうした物理的な制約も出力抑制を必要とする要因です。
出力抑制を行う際には、どの発電量から出力を減らすかが決まっており、これを「優先給電ルール」と呼びます。
まず、火力発電の出力を抑えたり、揚水発電で余剰電力を一時的に吸収したり、他のエリアへの送電を活用して需給バランスを調整します。
それでもなお過剰な電力が残る場合には、再生可能エネルギーの抑制が必要です。バイオマス発電の制御を行い、その後に太陽光や風力などの出力を抑制します。この順序は、各発電のコストや技術的な特性に基づいて決められています。
水力・原子力・地熱といった長期固定電源は、短時間での出力調整が難しく、一度抑制するとすぐに元の出力に戻せません。そのため、制御の最後に回されます。
出力抑制が起きると、太陽光発電が一時的にストップするため売電収入が減少します。特に、FIT(固定価格買取制度)を活用している事業者にとっては、計画通りの収益が得られないでしょう。
また、工場などで太陽光発電を利用して設備を動かしている場合も注意が必要です。出力抑制が発生すると、設備の電力を補うために電力会社からの通常の電気に切り替えが必要です。そのため、追加で電力料金がかかる場合があり、短期的にはコストが増えることになります。
さらに、予定通りの発電量が得られず、収益や運用計画の再調整が必要となり、事業運営に影響を与えることがあります。
再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、出力抑制の状況は年々変化しています。特に太陽光発電の普及が進む地域では、需要に対して発電量が過剰になる時間帯が増えており、今後の制御の実施頻度や影響を予測することが重要です。
資源エネルギー庁が発表した「再生可能エネルギーの出力制御に関する短期見通し等について」によれば、2025年度の再エネ出力制御の見通しは以下の通りです。
参考元:資源エネルギー庁|「再生可能エネルギーの出力制御に関する短期見通し等について」をもとに作成
2021年度までは九州電力のみが出力抑制を実施していましたが、2022年度には全国6社で出力抑制が開始されました。2023年度には9社に拡大し、2024年度は東京電力を除く全社で出力抑制が行われています。この影響もあり、2023年度の抑制量は18.8億kWhと前年を大きく上回り、2024年度も前年の1.1倍と高水準で推移する見通しです。2025年度は20億kWhと若干減少が予想されるものの、依然として高い水準が続くと見込まれています。
続いて、2025年度の各電力会社の出力抑制率の見通しを見ていきましょう。
参考元:資源エネルギー庁|「再生可能エネルギーの出力制御に関する短期見通し等について」をもとに作成
出力抑制率とは、発電事業者が発電できたはずの電力量のうち、電力会社からの指示によって抑制された割合を示す数値です。例えば、ある期間に本来は1,000kWh発電できる見込みだったのに、系統の安定運用のために100kWh分の出力を止められたとします。この場合の出力抑制率は 100 ÷ 1,000 × 100 = 10% です。出力抑制率が高いほど発電事業者の収益に直接影響します。
上記のグラフを見ると、九州電力が6.1%と出力抑制率が高いです。中国電力・四国電力・東北電力・北陸電力は2%を超えていますが、残りの電力会社は1%以下となっています。
各電力会社の出力抑制率の推移を紹介します。
2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 | |
北海道 | 0.04% | 0.01% | 0.04% | 0.3% |
東北 | 0.45% | 0.82% | 2.1% | 2.2% |
東京 | ー | ー | ー | 0.009% |
中部 | ー | 0.2% | 0.4% | 0.4% |
北陸 | ー | 0.56% | 1.0% | 2.1% |
関西 | ー | 0.1% | 1.7% | 0.4% |
中国 | 0.45% | 3.6% | 3.8% | 2.8% |
四国 | 0.41% | 1.8% | 4.0% | 2.4% |
九州 | 3.0% | 8.3% | 6.2% | 6.1% |
沖縄 | 0.08% | 0.27% | 0.1% | 0.2% |
九州や中国、四国は他地域に比べて高めの数値となっており、特に九州は2023年度に8.3%と最も高くなっています。東京や北海道、沖縄は低く安定しており、比較的抑制率は低めです。地域ごとに大きな差があり、再生可能エネルギーの導入状況や電力需給のバランスの違いが影響していると考えられます。
出力制御には、「旧ルール(30日ルール)」「新ルール(360時間ルール)」「無制限無補償ルール(指定ルール)」の3つのルールがあります。なお、2025年9月時点では、太陽光発電の新規接続案件は原則として「無制限無補償ルール(指定ルール)」が適用されます。
3つのルールの特徴や違いについて詳しく見ていきましょう。
旧ルールは、FIT制度の初期に設けられ、年間30日を上限に無補償での出力抑制に従うことが義務付けられていました。抑制が上限に達した場合は補償対象となり、発電事業者にとって収益の見通しが立てやすく、比較的有利なルールです。
当初は2015年1月25日以前に接続申し込みをした500kW以上の太陽光発電設備が対象でしたが、2022年4月以降は500kW未満の設備にも適用範囲が拡大されました。
新ルールは、年間の出力抑制時間を360時間までに制限するルールです。このルールの特徴は、年間の制御時間が時間単位で管理される点です。出力抑制の対象は、出力10kW以上の太陽光発電で、360時間を超過した分に対しては補償されます。
無制限無補償ルールは、出力抑制の時間に上限がなく、抑制に対する補償も行われないルールです。もともとは「指定ルール」と呼ばれ、特定の電力会社の管轄内に限って適用されていました。しかし、再生可能エネルギーの導入が全国で進んだことを受け、2021年4月以降はすべての電力エリアに拡大され、広く適用されるようになりました。
電力の需給状況に応じて、必要なタイミングで制御が行われるため、発電事業者にとっては収益に影響が出る可能性が高いです。
出力抑制の適用ルールは、地域ごとの発電量や需給バランスの状況に応じて、旧ルール・新ルール・無制限無補償ルールのどれが適用されるかが決まります。例えば、北海道電力、東北電力、九州電力においては、新ルールは適用されません。発電事業者は、接続予定の電力エリアのルールを確認した上で事業計画を立てる必要があります。各エリアの詳しい情報については、以下を参考にしてください。
参考元:
出力抑制による影響を抑えるためには、蓄電池を活用して発電量を調整したり、自家消費を増やして余剰電力を減らすなどの方法があります。それぞれの方法について詳しく紹介します。
蓄電池を導入することで、太陽光発電の発電量を効率的にコントロールすることが可能です。出力抑制が必要な時間帯でも余剰電力を蓄電池にためられるので、出力抑制の頻度や量を減らせます。蓄電した電力は、需要が高まる時間帯に自家消費や売電に利用できるのがメリットです。
近年は蓄電池の性能向上とコスト低下が進んでおり、小規模設備でも導入しやすくなっています。設置費用が気になる場合でも、補助金などを活用できる場合があるので、事前に確認しましょう。
関連記事:【2025年最新】中小企業に役立つ省エネ補助金をエリア・設備別に紹介
太陽光発電の余剰電力を減らすためには、自家消費を積極的に増やすことが効果的です。発電した電力を施設内の照明や空調、電気機器などで消費すれば、送電網に余剰電力を流す必要が少なくなり、出力抑制の対象となるリスクを下げられます。特に、昼間に電力需要が高い工場や事業所では、発電と消費をうまく組み合わせることで抑制を回避しやすくなります。
オンライン代理抑制とは、発電事業者が直接出力を制御するのではなく、電力会社が遠隔で発電設備の出力を調整する仕組みです。オンライン代理抑制を導入することで、需要と供給の状況に応じた迅速な制御が可能となり、出力抑制の影響を最小限に抑えられます。
特に、太陽光や風力など出力変動が大きい再生可能エネルギー設備では、リアルタイムでの制御が収益の安定化につながります。また、発電事業者は制御の手間を減らせるうえ、抑制リスクの把握や管理も容易になるのが特徴です。
出力抑制の影響を抑えるには、電力の需給状況をリアルタイムで把握することが重要です。特に太陽光発電は天候や時間帯によって発電量が変動するため、発電量や消費量の状況を常にモニタリングすることで、抑制が必要となるタイミングを事前に予測できます。これにより、蓄電池や自家消費の活用タイミングを調整し、出力抑制量を減らすことが可能です。
最近は、クラウド上で電力データを可視化できるサービスも増えており、発電量や消費量の変化を瞬時に把握できる仕組みを導入することで、抑制リスクの管理がより効率的になります。
エネグラフは、いろいろなCTクランプやスマートメーターにエッジデバイスを取り付けるだけで、エネルギー使用量が簡単にわかります。施設ごとの電力使用状況をリアルタイムで確認できるため、出力抑制に備えた計画的な運用が可能です。
太陽光発電の収益性を維持しつつ出力抑制リスクを抑える手段のひとつが、FIT制度からFIP制度への切り替えです。FIT制度は固定価格での売電が基本で、余剰電力や出力抑制の影響を受けやすい一方、FIP制度では市場価格に連動した売電が可能となります。これにより、抑制が発生した時間帯でも電力の価値に応じた収益を得やすくなります。
さらに、FIP制度では発電量の調整や自家消費との組み合わせが柔軟に行えるため、出力抑制に対応した運用計画を立てやすいです。特に再生可能エネルギーの導入が進む地域では、FIT制度のままでは抑制リスクが大きくなる傾向がありますが、FIP制度に切り替えることで、収益を確保しながら発電量の最適化を図ることが可能です。
九州電力エリアは太陽光発電の導入量が多く、出力抑制の発生頻度や抑制率が全国でも高い水準にあります。そのため、発電事業者にとって収益が不安定になりやすく、事業継続の判断に影響を与えるケースも少なくありません。こうした状況では、発電所を保有し続けるのではなく、売却によってリスクを回避する選択肢も考えられます。
特に中小規模の発電事業者は、抑制による収益低下が経営に直結しやすいため、売却という判断が現実的なケースもあります。一方で、大規模な企業や複数の発電所を保有する事業者にとっては、売却は現実的な選択肢になりにくく、より運用効率の改善や蓄電池・自家消費などの対策に重点を置くことが大切です。
出力抑制は再生可能エネルギーの普及とともに拡大しており、発電事業者にとって収益に大きな影響を与える重要な課題です。抑制率の推移を見ても、エリアによって大きな差があり、特に九州電力や中国電力など出力抑制量の多い地域では高い水準で推移しています。
対策としては、蓄電池や自家消費の拡大、リアルタイムデータの活用など、運営方法の工夫によってリスクを減らすことが可能です。エネグラフを導入すれば、クラウドで簡単に見える化ができます。出力抑制の対策だけでなく、費用の削減や環境への配慮、品質の向上など様々なメリットがあります。ぜひ導入を検討してください。
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